海外ドラマはHBO作品が面白い。Amazon で全話観られる。
同じHBOの作品「ガールズ」
試しに観てみたら、これもまた面白い。
主人公(ハンナ)がバイトしているカフェの
2ブロック先に住んでいる男性が、苦情を言いにくる。
「この店の従業員がうちのバケツにゴミを捨ててる」
苦情なんだけど、言い方がとても丁寧だ。知性を感じる。
ところがカフェのオーナー(ハンナの雇い主)の対応はとても無礼。
「うちにゴミバケツはある」
「なぜうちの人間だと(分かるんだ)?」
こんな攻撃的な態度にも、男性はひるまない。淡々と証拠を述べる。
「コーヒーの残りカスや請求書で」
このうえない証拠だ。
しかしオーナーもやり返す。「(俺に)制御できないことだってある」
一理あるように思えるが、相手の訴えを全く聞く気がない態度が明らさまだ。
それでも男性は負けない。「従業員は教育できる(はずだ、そうしてほしい)」
怒ったり怒鳴ったりせず、淡々とどうしてほしいかを訴える。なんて大人な態度。
ここでオーナーが仮に
「そうか、従業員に聞いてみるよ」
と、いったん受容していれば何もなく済んだ。
または、事実かどうか調べる保留つきで
「本当だとすれば、迷惑かけて悪かったね。でもまずは調べるよ」
ということもできたはずだ。
しかしオーナーは
「いや、従業員はきちんと教育している(からウチじゃない)」
跳ねのける。全く話を聞こうとしない。
これに対する男性の言葉がとても興味深い。
「非難してるんじゃない。不満を言ってるだけだ」
この言葉の意味を理解できるかどうかは、人生の重要な分かれ目な気がする。
自分のゴミを捨てられなくなってしまった男性は
困りごとを解決したいのでムカつく気持ちは抑えて相談に来た。
「分かるだろ?」(you know?)と言っているのは
「感情よりも問題解決を優先しよう」「ハナから喧嘩ごしの態度じゃお互いに嫌な思いをするのは目に見えている。建設的に問題解決したくて相談に来た。せめて相談には乗って欲しい。あなたが困っていれば自分だってそうする。分かるよね?お互い大人なんだから」が含まれている。
これが大人の物言いだ。とても参考になる。
しかしこのオーナー、幼稚だ。「もしかしたら一日中話し合うべきかもな」
すぐ極論に持っていく。「そんなこと(話し合い)に応じるわけねえだろ、お前なんか知らねえよ、取り合う気はねえよ」が含まれている。
だから「あんたの不満を解消する方法は分からない」と
全く話を聞こうとしない。
一切の受容が無い。あるのは自分の主張と感情のぶつけだけだ。
これには男性も感情的にキレておかしくない。が、そうしない。淡々と相手の理性に訴える。
「なぜ端(はな)っから失礼な態度なんだ?」
どうして?という純粋な疑問が60%、そんな態度では問題は解決しないよね?という諭しの感情が40%、といったところか。
「隣人同士、話そう」
一緒に問題解決してほしい、という純粋な気持ちが100%。
なのにオーナーはチャかして全く話を聞こうとしない。
「フェンスに寄りかかり仲睦まじく話すのか?」
「ビールで乾杯しゴスペルでも歌うか?」
そして言い捨てる。
「目を覚ませ、左翼野郎」
こういうときなぜ「右翼野郎」ではないのだろう。すごく示唆がある。
理性的、知性的な態度は左翼ということだ。アメリカであっても。地域や人種は関係なく、冷静で大人な態度は「左」なのだ。ひるがえってみれば、幼稚なこのオーナーの態度は「右翼野郎」ということになる。
オーナー「ウザいオヤジだ。マジ萎えるぜ」
そんな言葉を聞いた主人公(ハンナ)は
怒る。
「なんであんな態度を?(ちゃんと話を聞いてやりなよ)」
オーナー「あんな態度?(俺の何が悪い?)」
何が悪いのか分かっていない。本当に分からないのだ。この幼稚さが右翼だ。恐ろしい。
「こんなところで働けない。もう辞める(I'm out)」
若くて奔放な主人公だが、大事なところでマトモだ。これがこのドラマの魅力。
「マジか?」
幼稚なオーナーは、なぜ自分が責められるのか、なぜハンナが辞める(ほどの重大事)なのか、状況が全く理解できない。
気まずくて周りに当たる。「何見てんだよ」
これも右翼にありがちな態度。ほんとよくできたドラマだ。
男性の家に謝りに行く主人公。
「帰ろうかな」と口には出すが
実は帰りたくないらしい。
男性に「いてほしい」と言われても
その言い方じゃ満足しない。
「帰らないで」だけでは足りない。
「帰らないで」「いてほしい」と私に懇願(beg me)してほしい
軽い感じではダメ。
もっと悲痛な(真剣な?)感じで。
おふざけでもダメ。
シリアスに「帰らないで」と言って欲しい。
これを聞いた男性は
即座に
「一緒にいてくれ」
「二度と帰したくない」と真剣になる。
「君なしじゃ死ぬ」
こういうのは
理性より本能
頭脳より下半身
左翼より右翼
のほうが上手な気がするが
この男性は(左翼でありながら)右翼の本能も持ち合わせているようだ。両刀使い素晴らしい。
ちなみに、日本での「イク=Go」の単語は、海外だと「come」らしい。
映画 Pulp fiction にも(違う表現だけど)あった。
これ(たぶん)文化人類学的な何か。面白い。
男性の仕事は医者。
医者(=知性のある人間=左翼)は
古風な名前が好き。
日本でもマトモな名前の人間は相応の地位に行く。キラキラネーム(=右翼)は大衆にまぎれる。これも世界共通か。
既婚だったが
別居していて
破局への反省もある。
「働き詰めで妻の気持ちが分からなかった」
「終わりかたなんてそんなものだ」
こういうところも知性的だ。
ゆえに幼稚さ(=右翼的)を嫌う。
主人公が「拳をかざして(右翼的な)やり返しをしなきゃ」とは言うけど
笑って流す。ちなみに男性42歳、ハンナ24歳。
本を読む男性と黙って一緒に過ごすハンナ。
黙って一緒に居られるのは
知性的だから。
含蓄あるドラマだ。