史跡クチ(Cu Chi)。
ベトナム戦争時、無数に張り巡らされたクチのトンネル(Cu Chi Tunnels)はアメリカ兵を極限まで苦しめた。
どうしようもなくなったアメリカはついに枯葉剤(猛毒ダイオキシン)を撒き、ベトちゃんドクちゃんの悲劇を生んだ。
歴史の爪痕が今なお深く残る、その跡を見に行った。
ツアーは現地で自分で予約。
当然すべて英語だが…
お値段たったの180,000ドン(900円)。
丸一日楽しめるボリュームで、これが日本語ツアーであれば最低でも5,000円は取られるだろう内容なのになんたる安さ。というか日本語はムダにコストが高いことを痛感させられる。
壁に貼られたThanks用紙にも日本語のは一つもない。
それにしたって値段5分の1以下とは。英語カジじるだけでも世界は変わる。
翌朝8:00。念のためお金をおろして行こうかと思ったが時間がなかったのでやめた。
予約した店に集合。
出発。英語とはいっても聴きやすいガイドさんで、言っていることは全部理解できた。
ラフに腰掛けながらベトナム語訛りの英語でフレンドリーに話してくれる。これだから現地ツアーは面白い。ちなみに参加者には他の日本人は一人もいなかった。
「ベトナムの人口を知ってますか?バイクの台数はどう?すごい数のバイクですよね?」
「ベトナムの冗談でバイクの数が彼女(彼氏)の数を表してるって話があります。1台あれば1人、2台あれば2人、ちなみに私は2台持っていますが…I dont still have a boyfriend.hahaha」
冗談で場の雰囲気を和らげたあと
「今日の行き先はクチトンネルですが、その前に1箇所、別の場所に寄ります。みなさん、Agent Orangeって知っていますか?」
他の参加者(アメリカ人、イギリス人、韓国人)は全員「当然」「Yeah」って態度。
え、何?エージェントオレンジ?知らない…と思ったら枯葉剤のことだった。
枯葉剤の散布写真を掲げ、これがどれほどの荒廃をもたらしたかを語る。
ろくに歴史の勉強もせずに物見遊山で来てしまったことが恥ずかしくなる。
そして話はベトナム戦争へと続く。
「私の友達で、あのとき戦わなければベトナムは今もっと経済的に発展していたかもという人もいるけど、そんなのはベトナムじゃない。Vietnam belongs to Vietnamese」
彼女の英語は確かにそう言ったと思う。
この気骨。年のほどは25歳?28歳?くらいと思うけど、アメリカから自国を守り抜いた、その気概というか心は今も連綿と続いているのだと。感じずには居られなかった。
彼女は続けた。
「でも、枯葉剤は本当に深刻な影響を私たちにもたらしました。その影響が消えるまでは5代かかると言われています。でもまだ3代目です」
あれ?そもそもベトナム戦争で枯葉剤が撒かれたのっていつだ?それすら知らずにこの場にいる自分が情けなくなる。
すぐにスマホで調べたら、1961年から1971年まで10年間も散布されていた。
このとき枯葉剤に暴露したのが1代目だとして、ベトナム人は結婚が早いらしいから、最速20歳で子供ができたとすると
・1971年 1代目 枯葉剤に暴露+出産
・1991年 2代目 ↑このとき生まれたベトナム人が20歳+出産
・2011年 3代目 ↑2代目が生んだベトナムが20歳
そうか。今日2019年(ツアー)時点で3代目は28歳。目の前にいるガイド、彼女自身が3代目なのだ(いくら結婚が早いからといって20歳で産むなんてことはないだろうから、もっと若いかもしれないが)。
彼女は続ける。
「若い男女が元気で(五体満足で)いて、でも彼らは実は枯葉剤の影響を受けていることを何も知らないまま、出会って結婚しますよね。そうして子供ができたとき、枯葉剤の影響が出てきます」
つまり、いまリアルに目の前にいるガイド、彼女自身が「自分は3代目で、生まれてくる子が枯葉剤の影響を受けているかもしれない」と考えている。「もし自分が枯葉剤の影響を受けていて、生まれてくる子に障害が出たら…」と考えながら話している。
「I dont still have a boyfriend.」などと冗談めかしてはいるが、その恐怖といったらどれほどのものか。胸が痛くなった。
そう言えば前日に行ったベトナム戦争証跡記念館の展示では2009年に「胸で身体が繋がった結合体双生児が生まれた」とあった。
我が子を見たときの母親のショック。2代目か3代目だろう。
行きのフライトで聞いた歌がなんか頭をよぎった。
彼女は続ける。
「これから寄る施設は、そういった(枯葉剤の影響を受けた)人々の就職のために、国が作った施設です。彼らが作ったものを買うこともできます。買うかどうかは皆さんの自由です。」
施設に到着。
実際どんな場所でどうやって作っているかは、現場に行って見たほうがよいと思う。
彼らの作った工芸品に
悲惨な歴史の影響をモロに背負っている彼らの辛苦を想像せずには居られなかった。
ショールームに入る。
Your purchase significantly contributes in helping those who are handicapped and suffered Agent Orange.
値段はそれほど安くはないが、日本人にとっては実用的な箸や椀をはじめ、モノとして良い品や小物がけっこうあり。お金をおろしてこなかったこと、物見遊山な態度で参加してしまったことを激しく後悔した。
施設を後にする。
そしてこのあと、実際にクチのトンネルで戦争を戦い抜いた彼らの驚愕の工夫を知ることになる。